海の幸、山の幸に恵まれた「茅ヶ崎の伝統食」をご紹介します。
また、「茅ヶ崎の伝統食」を実際に食べて頂くセミナーも、2017年3月19日に開催いたしました。
ご参考に以下に記載いたします。



 
茅ヶ崎は東海道(国道一号)を境に山側には田畑の村、海側には半農半漁の村々が広がっていた。そして山側は豊富な山野の幸に、海側は豊かな海の幸に恵まれていた。

私たちはご飯といえば米のご飯を思い浮かべる。しかし、それはここ六、七十年来のことで、その前は米を食べるのは特別の日だけとし、いつもは米以外のものを主食にしていた。
米を節約して何を食べていたかというと、むぎ(大麦)、だんごやいも、うどんやそばの類だった。もっとむかしはひえ(稗)やきび(黍)もあったと思われるが、食べていたという話は伝わっていない。
農家で米を作らなかったわけではない。米は重要な作物で、家族全員カを合わせ米作りに励んだ。収穫した米は年貢に出し、あるいは売ってお金に換えた。自宅で食べるものではなかったのだ。
今はいろんな食材がそろっているが、むかしは土地でとれるものを食べることが多かった。
春、夏、秋、冬、自然のなかで育てた野菜や穀物。相模湾の魚、貝、海藻。上手に採ってむだなく料理した。
味噌や醤油は自家でつくり、燃料として落ち葉でさえかき集めた。
男も女も、子どもも年よりも、自分にできることにいそしみ、苦しいときがあっても、小さなよろこびを大切にして暮らした。

1日の食事



  • ■アサメシは蒸(ふ)かしたさつまいもやイモダンゴに味噌汁だったが、ヒキワリや押し麦を使う時代になると麦めしに味噌汁、漬け物と変わった。
  • ■ヒルメシはオバク。これも時代が変わると麦飯、味噌汁、漬け物になった。オバクは炊くに時間がかかるのでアサメシには間に合わず、もっぱら昼に食べた。
  • ■野良仕事では、午前中はオチャ、午後はオコジュウという間食をとった。オチャにはヒョックリイモやイモダンゴ、漬け物など。茄でた小さい里芋は指でつまむとヒョックリ顔を出す。オコジュウはさつまいもや麦めしのおにぎり。
  • ■ユウメシは昼の残りのオバクや麦めしに味噌汁、漬け物。あるいは煮込みうどんなど。野菜の煮物や焼き魚を付けることもあった。農繁期はオチャ、オコジュウを入れて一日五回の食事。夜なべ仕事をするとさらにヤショクも。これが農家の一日の食事。

 

ごはん

■オバク
明治のころまで主食に大麦(丸麦)をよく食べた。農家は自分で育てたり、米に比べると安く手に入ったので、米を売って麦を買ったといわれている。
丸麦とは大麦の外皮を取ったもので、食べるようにするまでに手がかかった。前の晩から水に漬けておいて、朝、水を換えて火にかける。火がとおってからそのままおくと膨らんでくる。水を捨て、麦八、米二の割合で米を加え、もう一度火にかける。炊いている最中と炊きあがってからしゃもじで練る。「オバクとお神輿は練るほど良い」という。バクメシ、ネリバクなどとも呼んだ。
■ヒキワリメシ
その後、丸麦を石臼にかけて挽き割る方法が考えられて麦も簡単に炊けるようになった。挽き割った麦と米を混ぜて一度で炊きあげる。
オバクやヒキワリメシに、粟(あわ)を加えて量を増すこともあった。麦、米、アワの三種でミトリメシといった。
■ムギメシ
時代が昭和になると押し麦が店に並んだ。丸麦をローラーにかけて平たくしてある。今でも売られているのでトロロご飯のときや、健康維持のために用いる人もいるが、米を多く麦は少しと、むかしとはその割合が逆転した。
■カテメシ
麦と米に大根や芋などを炊き込むこともあった。カテとは加える意味で、量を増やすためのエ夫である。漁家では海藻類を入れたという。私たちが食べる五目飯やちらしも力テメシだが、味を楽しむ方に力がかかっている。


うどん そば いもだんごなど

■うどん そば
うどんは小麦粉を練り、踏みつけ、寝かせて細く切る。小麦粉にそば粉を混ぜてもそばというが、小麦粉だけでつくつても茅ヶ崎辺りではそばと呼ぶ。これら麺類も一食分としてよくつくった。簡易に作ればすいとん、野菜を入れれば煮込みうどん。そば粉は麺に仕上げるほか、お湯で練ってだし汁で味をつけ、そばがきにもした。
■アワップカシ あわもち
あわ(粟)にあずき(小豆)や刻んださつま芋を混ぜて、蒸籠で蒸(ふ)かしてつくる。これも一食分にした。あわにもうるち(粳)ともち(糯)がある。正月には、米の餅のほかに、もちあわ(糯粟)であわもち(粟餅)もついた。
■いも(芋)
いもといえばさつま芋と里芋。これらも一食分としてよく食べた。砂がちの平塚、茅ヶ崎、藤沢の海岸地帯ではさつま芋がよく育った。里芋の類ではエグミのあるエゴイモが作りやすく保存が効いた。エグミをぬいて食べる。
■イモダンゴ
さつまいもを蒸かすのは普通の食べ方。薄く切って蒸かして干した干しいもや、干した薄切りを石臼で挽いて粉にし、熱湯で練り、にぎって指跡のついたいも団子もよくつくった。これを蒸籠で蒸すと黒くなる。「辻堂名物いも団子」「鵠沼の三度バクにいも団子 」は椰楡する言葉だが、湘南ではどこにでも当てはまる。
■ヤキビン(カッパ)・ムギコガシ
小麦粉を水で溶いて平らに焼き、さつま芋やみそをあんして食べる。ヤキビンとかアンビンとかカッパという。河童の頭の皿のような形。おやつとして仕事に持って行き、家でも囲炉裏の火のそばに埋めて温めて食べた。大麦を煎って石臼で挽き、ふるいにかけたムギコガシは甘みを混ぜたり、お湯で練ったりして食べた。これもおやつに。


汁もの おかず

■みそ汁
みそ(味噌)は三年みそがいいと三年寝かせて使った。みそ汁は、季節の野菜のほかに団子やうどん、魚のすり身などと実をいろいろ変えて欠かさなかった。みそを仕込むとき、どこの家でも、桶の底になすやショウガや瓜などを漬けて味噌漬けをつくった。
■野菜の煮物
大根、人参、ごぼう、なす、かぼちゃ、芋類、豆類、葉ものなどなど。野菜は煮て食べることが多かった。
■漬け物
たくあん、梅干し、らっきょう漬けは多くの家でつくっていた。葉もの野菜の一夜漬けも欠かさなかった。オバクなりヒキワリメシなりムギメシなりの主食と、みそ汁、漬け物の三点セットが普段の食事の基本形だった。これに野菜の煮物、あるいは煮魚か焼き魚が付くとたいへんなごちそうだった。
■魚
ボテェ(お得意先を回って売り歩く魚屋)から時々買うあじ(鯵)、いわし、さば、シコ(カタクチイワシ)や干物などが動物性タンパク質の食物で、煮たり焼いたりし、刺身で食べることは少なかった。魚のほかの肉類を食べることは少なかった。にわとりを飼っていれば、卵をとったり、モノビ(祭礼などの特別の日)につぶすことはあったが、どこの家でも飼っているものではなかった。
■ナメミソ(舐めみそ)
今でいう金山寺味噌のこと。オバクやムギメシによく合うので、欠かせないおかずだった。大豆を煎って一升枡などの底でごりごりやると皮がとれて二つに割れる。一方、小麦を水に浸して芯まで柔らかくする。大豆と小麦を混ぜて蒸かし、こうじ菌を加えてむしろに包んでおく。熱が出たら手でならす。一週間ほどでこうじができる。このこうじに塩を混ぜ、なすやショウガを刻んで加える。十日ほどほど漬け込むと完成。


モノビのカワリモノ

■モノビ(物日)
祭礼、年中行事の折々、冠婚葬祭、稲荷講や庚申講のお日待ちなど特別の日をいう。モノビにはカワリモノをつくる。カワリモノはごちそうのこと。ウドン、ソバは普段にも食べるが、モノビにもよくつくりカワリモノの一品にした。
■米のごはん
正月三が日は米だけの白いご飯を炊いた。葬式にも米を使って茶飯、枕めし、枕だんごをつくる。緊急事態なので組や近所が米を少しずつ持ち寄った。このようなことに備えて米は大事に保存しておかなければならなかった。
■赤飯・小豆飯(あずきめし)
赤飯は餅米にあずきやさささげを混ぜて蒸かす。小豆飯はうるち米とあずきを炊き合わせる。どちらも赤い色をしている。前者は結婚式や村祭りやタテマエ(上棟式)のごちそう。後者は稲荷講にお供えし、お参りする人にオテノクボで振る舞った。また、月の一日 、十五日に家の中の神仏に供えた。
■煮しめ
もう一つのごちそうといえば野菜の煮しめ。豆腐、にんじん、ごぼう、大根、里芋、きのこ類などが主な材料。村祭りや講中の集まりには欠かせなかった。


「再発見!茅ヶ崎の伝統食」編集に際しお話を伺った方々

  • 芦沢地区  本間鋭朗さん 本間イトさん 吉田ゆきさん
  • 柳島地区  青木昭三さん 平牧ハル子さん 前田照勝さん
  • 南湖地区  秋本芳子さん 今井豊さん 鈴木キヨ子さん
    岩澤敏子さん 鈴木良子さん 木村まつこさん
    池田レイさん 岩澤裕さん 木佐森美貴子さん

ご協力有難うございました。


「引用した図書」

  • 「神奈川県史」各論編五 民俗 昭和五十二年神奈川県刊
  • 資料館叢書五「柳島生活誌」 昭和五十四年茅ヶ崎市教育委員会刊
  • 「ふるさとの味」 昭和五十四年神奈川県農政部刊
  • 「藤沢市史」七 文化遺産・民俗編  昭和五十五年藤沢市刊
  • 「茅ヶ崎市史」 三 考古・民俗編  昭和五十五年茅ヶ崎市刊
  • 「平塚市史」 十二 別編民俗 平成五年平塚市刊
  • 「田の字の家」1 0 0 年前に生まれたおばあさんの話
    平成六年茅ヶ崎市教育委員会刊
  • 資料館叢書十一「南湖郷土誌」 平成七年茅ヶ崎市教育委員会刊

 

  • 企画・制作 ふくの会 生悦住型造
  • 編集コピー 平野文明さん
  • 編集デザイン 生悦住正志さん
  • 料理監修 岡崎文江さん
  • 料理写真 平山和子さん
  • 料理制作 本間イトさん 吉田ゆきさん 前田照勝さん 奥田哲夫さん 平山和子さん
  • 取材 野村忠 松田昌夫 三好徳尚 岡宏 渋谷雅巳

*平成二十八年度茅ヶ崎市市民活動げんき基金補助事業


”「茅ヶ崎の伝統食」を召しあがれ” 食事会のご紹介

「茅ヶ崎の伝統食」を実際に召し上がっていただき、理解を深めて頂く場として、2017年3月19日、下記の食事会を開催いたしました。
本食事会のパンフレットはこちらからダウンロードできます。

私達は茅ヶ崎市市民活動げんき基金補助事業に採用され昔々食べられていた、「茅ヶ崎の伝統食」の取材をし、写真を撮り、小冊子にまとめました。
美味しくって、体にいい食べ物を、いっぱい教わりました。
本日、「茅ヶ崎の伝統食」を献立に生かした食事会を開催いたします。

お母様、お父様もお子様とこ一緒にどうぞ。
シニアの方もお待ちしてます。懐かしい味が楽しめます。

平成28年度茅ヶ崎市市民活動げんき基金補助事業